配偶者に全部残すことはできるのか?遺留分や法定相続と希望のバランスを取る方法とは

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大切な人を失った時、残された配偶者の生活を守りたいと思うのは自然な気持ちです。しかし、法律で決められた相続のルールがあるため、配偶者にすべての財産を残すことは簡単ではありません。遺言書を書いても、他の相続人から遺留分という最低限の取り分を請求される可能性があります。

この記事では、配偶者により多くの財産を残しつつ、家族関係を壊さずに済む方法について詳しく解説します。法律の仕組みを理解して、あなたの希望と現実のバランスを取る具体的な対策を見つけていきましょう。

目次

配偶者に財産を全部残したいと思ったときの現実

愛する配偶者に全財産を残したいと考える方は多いでしょう。しかし、実際にはいくつかの法的な制約があります。

法律で決まっている相続のルール

日本の法律では、相続人になれる人とその順番が決められています。配偶者は常に相続人になりますが、他にも子ども、両親、兄弟姉妹が相続人になる場合があります。

配偶者と子どもがいる場合、配偶者の法定相続分は2分の1です。つまり、1000万円の遺産があれば、配偶者は500万円、子どもたちで残りの500万円を分け合うことになります。配偶者と両親が相続人の場合は、配偶者が3分の2、両親が3分の1を相続します。

ただし、配偶者以外に相続人がいない場合は、配偶者がすべての遺産を相続できます。これは最もシンプルなケースといえるでしょう。

遺留分って何?配偶者以外の相続人の権利

遺留分とは、一定の相続人が最低限受け取れる財産の割合のことです。これは遺言書があっても奪うことのできない権利として法律で保障されています。

遺留分を持つのは配偶者、子ども、両親です。兄弟姉妹には遺留分がありません。配偶者と子どもが相続人の場合、それぞれの遺留分は法定相続分の半分になります。

例えば、配偶者と子ども1人がいる場合、配偶者の遺留分は4分の1、子どもの遺留分も4分の1です。つまり、遺産の半分は遺留分として確保されているということになります。

遺言書があっても全部は渡せない理由

遺言書を作成すれば、法定相続分に関係なく財産の分け方を決められます。しかし、遺留分を侵害する内容の遺言書を作った場合、他の相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。

この請求を受けると、配偶者は他の相続人に対して金銭を支払わなければなりません。せっかく全財産を相続しても、後から大きな金額を支払うことになれば、配偶者の生活が不安定になってしまいます。

遺留分侵害額請求は、相続の事実を知ってから1年以内に行う必要があります。この期間を過ぎれば請求できなくなりますが、1年間は常に請求される可能性があることを覚えておきましょう。

遺留分を持つ人と持たない人の違い

遺留分の権利は、すべての相続人に認められているわけではありません。誰が遺留分を持つのかを正確に理解することが重要です。

子どもがいる場合の遺留分

子どもは常に遺留分を持ちます。配偶者と子どもが相続人の場合、子どもの遺留分は相続財産の4分の1です。子どもが複数いる場合は、この4分の1を人数で割った金額がそれぞれの遺留分になります。

子どもが既に亡くなっている場合でも、その子ども(つまり孫)がいれば代襲相続により遺留分を受け継ぎます。このため、子どもの系統がある限り、遺留分を完全に避けることは難しいといえるでしょう。

養子も実子と同じように遺留分を持ちます。また、認知された非嫡出子も遺留分の権利があります。家族関係が複雑な場合は、誰が遺留分を持つのかを事前に整理しておくことが大切です。

両親が生きている場合の遺留分

子どもがいない場合、両親が相続人になり遺留分を持ちます。配偶者と両親が相続人の場合、両親の遺留分は相続財産の6分の1です。

両親のうち一方が亡くなっている場合は、生きている親だけが遺留分を持ちます。両親が亡くなっていて祖父母が生きている場合は、祖父母が遺留分を受け継ぎます。

両親の遺留分は子どもの遺留分よりも少ないため、配偶者により多くの財産を残しやすいといえます。しかし、それでも一定の制約があることは変わりません。

兄弟姉妹には遺留分がない理由

兄弟姉妹は法定相続人にはなりますが、遺留分は持ちません。これは、兄弟姉妹は被相続人との関係が配偶者や子ども、両親ほど密接ではないと法律が判断しているためです。

つまり、相続人が配偶者と兄弟姉妹だけの場合、遺言書で配偶者にすべての財産を相続させることができます。この場合、兄弟姉妹は遺留分侵害額請求をすることができません。

ただし、兄弟姉妹が既に亡くなっていてその子ども(甥や姪)がいる場合でも、甥や姪に遺留分はありません。これは相続対策を考える上で重要なポイントです。

配偶者により多く残すための具体的な方法

遺留分の制約があっても、工夫次第で配偶者により多くの財産を残すことは可能です。いくつかの方法を組み合わせることで効果的な対策ができます。

遺言書で配偶者の取り分を最大化する

公正証書遺言を作成することで、配偶者への相続を確実にできます。公正証書遺言は公証人が作成するため、形式的な不備で無効になるリスクが低く、家庭裁判所での検認手続きも不要です。

遺言書には、なぜ配偶者に多くの財産を残したいのかという理由も記載しましょう。配偶者の介護や家事への貢献、他の相続人への配慮などを具体的に書くことで、遺留分侵害額請求のリスクを減らせます。

また、遺言書で配偶者に相続させる財産の種類も工夫できます。現金や預貯金よりも、居住用の不動産を優先的に配偶者に相続させることで、配偶者の生活基盤を守ることができます。

生前贈与を使って財産を移しておく

生前贈与を活用することで、相続財産を減らし、実質的に配偶者により多くの財産を渡せます。贈与税には年間110万円の基礎控除があるため、この範囲内での贈与は非課税です。

長期間にわたって少しずつ贈与することで、大きな金額を移すことができます。例えば、年間100万円を20年間贈与すれば、2000万円の財産を移せます。ただし、毎年同じ金額を同じ日に贈与すると定期贈与とみなされる可能性があるため注意が必要です。

贈与を行う際は、贈与契約書を作成し、銀行振込などの客観的な記録を残すことが重要です。これにより、贈与の事実を明確にし、後のトラブルを防げます。

生命保険を活用した財産の移し方

生命保険を使った相続対策は非常に効果的です。配偶者を受取人にした生命保険に加入することで、保険金は相続財産ではなく受取人固有の財産になります。

生命保険金には相続税の非課税枠があります。法定相続人1人につき500万円まで非課税になるため、配偶者と子ども2人がいる場合は1500万円まで非課税で受け取れます。

また、生前贈与と生命保険を組み合わせる方法もあります。子どもに保険料相当額を贈与し、子どもが契約者となって親を被保険者とする保険に加入します。この場合、保険金は子どもの一時所得となり、相続税よりも税負担が軽くなります。

夫婦間の贈与特例を使う方法

婚姻期間が20年以上の夫婦間では、居住用不動産の贈与について特別な控除が受けられます。基礎控除110万円に加えて2000万円まで非課税で贈与できるため、合計2110万円まで贈与税がかかりません。

この特例を使って自宅を配偶者に贈与しておけば、相続財産から除外できます。自宅は相続財産の中でも大きな割合を占めることが多いため、この特例の効果は非常に大きいといえます。

ただし、この特例は同じ配偶者からは一度しか使えません。また、贈与を受けた年の翌年3月15日までに確定申告をする必要があります。

遺留分を請求されたときの対処法

どんなに対策をしても、遺留分侵害額請求を受ける可能性はあります。その場合の適切な対処法を知っておくことが重要です。

遺留分侵害額請求とは何か

遺留分侵害額請求とは、遺留分を侵害された相続人が、本来受け取れるはずの金額を取り戻すために行う請求です。2019年の相続法改正により、現物での返還ではなく金銭での支払いが原則となりました。

請求を受けた場合、まず請求者が本当に遺留分権利者なのかを確認しましょう。戸籍謄本などで相続関係を証明してもらい、請求の根拠を明確にすることが大切です。

請求が正当なものであれば、支払い義務があります。無視すると調停や訴訟に発展する可能性があるため、適切に対応する必要があります。

請求されたときの話し合いの進め方

まずは当事者間での話し合いを試みましょう。遺留分の計算方法や金額について、お互いの認識を確認することから始めます。

話し合いで解決が難しい場合は、内容証明郵便で正式に回答します。その後、家庭裁判所での調停を申し立てることになります。調停では調停委員が間に入って話し合いを進めるため、感情的な対立を避けやすくなります。

調停でも合意に至らない場合は訴訟になりますが、多くのケースは調停で解決されます。早い段階で弁護士に相談することで、適切な対応ができるでしょう。

分割払いや現物での支払い方法

遺留分侵害額の支払いが困難な場合、いくつかの対処法があります。まず、裁判所に支払猶予を申し立てることができます。受遺者の生活が著しく困難になる場合などに認められる可能性があります。

分割払いの交渉も有効です。相手方の同意が必要ですが、明確なスケジュールや担保の提供により合意しやすくなります。不動産の抵当権設定なども検討できるでしょう。

また、請求者に対して反対債権がある場合は相殺も可能です。被相続人への貸付金や介護費用の負担などがあれば、それらを遺留分侵害額と相殺できます。

家族関係を壊さずに希望を叶える工夫

相続は法律の問題であると同時に、家族の問題でもあります。関係性を維持しながら希望を実現する工夫が必要です。

事前に家族と話し合っておく大切さ

相続について家族で話し合うことは決して早すぎることはありません。親が健康で、まだ余裕があるうちに家族会議を開くことが理想的です。

話し合いでは、財産の内容や分配方法について透明性を持って説明しましょう。なぜ配偶者により多くの財産を残したいのか、その理由を家族に理解してもらうことが重要です。

感情的になりがちな話題ですが、お互いの気持ちを尊重し、誠実に対話することで信頼関係を築けます。隠し事は後の大きなトラブルの原因になるため避けるべきです。

配偶者が困らないための準備

配偶者が相続後に困らないよう、具体的な準備をしておきましょう。銀行口座や保険の情報、重要書類の保管場所などを整理し、配偶者に伝えておくことが大切です。

また、配偶者が相続手続きを一人で行うのは大変です。信頼できる専門家を事前に見つけておき、配偶者に紹介しておくと安心です。

日常生活に必要な手続きについても説明しておきましょう。公共料金の支払い方法や、各種契約の名義変更など、細かな点まで配慮することで配偶者の負担を軽減できます。

他の相続人への配慮の仕方

配偶者により多くの財産を残したいからといって、他の相続人を完全に無視するのは得策ではありません。適切な配慮を示すことで、遺留分侵害額請求のリスクを減らせます。

例えば、子どもたちには教育資金や住宅資金として生前に一定の支援をしておく方法があります。これにより、相続時の不公平感を和らげることができるでしょう。

また、形見分けや思い出の品については、金銭的価値に関係なく他の相続人にも配慮することが大切です。気持ちの面での配慮が、後の関係性に大きく影響します。

専門家に相談すべきタイミング

相続対策は複雑で、専門的な知識が必要な場面が多くあります。適切なタイミングで専門家に相談することが重要です。

弁護士に相談した方がよい場合

相続人が多い場合や、遺産分割で揉める可能性がある場合は弁護士への相談を検討しましょう。弁護士は各専門家の中で唯一代理権を持っているため、複雑な手続きを任せることができます。

不平等な分割方法が記載された遺言書がある場合も、弁護士の助言が必要です。遺留分侵害の可能性や、その対策について専門的なアドバイスを受けられます。

また、既に遺留分侵害額請求を受けている場合は、早急に弁護士に相談すべきです。適切な対応により、支払い額を減らしたり、支払い条件を有利にしたりできる可能性があります。

税理士に相談した方がよい場合

相続税の計算や節税対策については税理士の専門分野です。相続財産の評価や相続税の試算、適切な対策の提案などを受けられます。

生前贈与や生命保険を活用した対策を検討する場合も、税理士のアドバイスが重要です。贈与税と相続税のバランスを考えた最適な方法を提案してもらえるでしょう。

また、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例など、各種特例の適用についても税理士に相談することで、税負担を最小限に抑えられます。

相談前に準備しておくべき書類

専門家への相談を効果的に進めるため、事前に必要な書類を準備しておきましょう。まず、家族関係を示す戸籍謄本や住民票が必要です。

財産に関する資料も重要です。不動産の登記事項証明書、預貯金通帳、有価証券の残高証明書、生命保険証券などを用意しましょう。負債がある場合は、その資料も必要です。

既に遺言書を作成している場合は、その写しも持参します。また、これまでに行った生前贈与がある場合は、その記録も整理しておくことが大切です。

まとめ:配偶者を守りながら円満な相続を実現するために

配偶者にすべての財産を残したいという気持ちは自然ですが、遺留分という法的な制約があることを理解することが重要です。しかし、適切な対策を講じることで、配偶者により多くの財産を残しつつ、家族関係を維持することは可能です。遺言書の作成、生前贈与、生命保険の活用など、複数の方法を組み合わせることで効果的な対策ができます。何より大切なのは、家族との事前の話し合いと、専門家への適切なタイミングでの相談です。配偶者を守りながら円満な相続を実現するために、早めの準備を心がけましょう。

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