葬儀で挨拶を頼まれたとき、何を話せばよいのか悩む方は多いでしょう。大切な人を見送る場面で、参列者の方々に感謝を伝え、故人への想いを込めた挨拶をするのは責任重大です。しかし、基本的なマナーと構成を理解しておけば、心のこもった挨拶ができるようになります。
通夜、告別式、精進落としでは、それぞれ挨拶の目的や内容が少し異なります。また、使ってはいけない言葉や表現もあるため、事前に知っておくことが大切です。この記事では、各場面での挨拶例文と、気をつけるべきポイントを詳しく解説していきます。
葬儀の挨拶で知っておきたい基本マナー
簡潔にゆっくり話すことが大切
葬儀での挨拶は、長すぎても短すぎてもよくありません。参列者の方々は長時間の式に参加しており、疲れていることも考慮する必要があります。挨拶の時間は2分から3分程度を目安にしましょう。
話すときは、普段よりもゆっくりとしたペースを心がけてください。緊張していると早口になりがちですが、落ち着いて一語一語をはっきりと発音することで、参列者全員に想いが伝わります。また、声の大きさも適度に保ち、会場の後ろまで届くよう意識することが重要です。
聞き手への配慮を忘れずに
挨拶では、まず参列者への感謝の気持ちを伝えることから始めます。忙しい中を時間を作って足を運んでくださった方々への敬意を示すことが、挨拶の基本となります。
故人との思い出を話すときも、参列者の方々が共感できるような内容を選びましょう。あまりにも個人的すぎる話や、内輪だけにしかわからない話は避けた方が無難です。多くの人が故人を偲び、温かい気持ちになれるようなエピソードを選ぶことが大切です。
死因には触れない
葬儀の挨拶では、故人の死因について詳しく触れることは避けましょう。病気で亡くなった場合でも、具体的な病名や闘病の詳細を述べる必要はありません。「長い間の療養生活」や「病気と闘っていました」程度の表現にとどめておくのが適切です。
事故や自死などの場合は、特に慎重になる必要があります。遺族の気持ちを考慮し、「突然のこと」「思いがけない出来事」といった表現を使うようにしましょう。
通夜での挨拶例文とポイント
通夜挨拶の基本構成
通夜での挨拶は、告別式の挨拶よりも簡潔にまとめるのが一般的です。参列者への感謝、故人への想い、翌日の告別式の案内、通夜振る舞いへのお誘いという流れで構成します。
通夜は故人と最後の夜を過ごす大切な時間です。そのため、挨拶も温かみのある内容にし、参列者の方々に故人を偲んでもらえるような雰囲気作りを心がけましょう。また、翌日の告別式についても簡単に案内することで、参列者に必要な情報を伝えることができます。
喪主による通夜挨拶の例文
「本日はお忙しい中、父の通夜にお越しいただき、誠にありがとうございます。皆様にお見送りいただき、父もきっと喜んでいることと思います。
父は先月から入院しておりましたが、昨日の夕方、家族に見守られながら静かに息を引き取りました。78歳でした。生前は皆様に大変お世話になり、父に代わりまして心よりお礼申し上げます。
明日の告別式は午前10時より、こちらで執り行わせていただきます。お時間の許す方は、ぜひお見送りいただければと思います。
本日は心ばかりの食事をご用意させていただきました。お時間の許す方は、父の思い出話などお聞かせいただければ幸いです。本日は誠にありがとうございました。」
親族代表による通夜挨拶の例文
親族代表として挨拶する場合は、喪主に代わって参列者への感謝を伝えます。故人との関係性も簡単に触れながら、温かい挨拶を心がけましょう。
「遺族を代表いたしまして、一言ご挨拶申し上げます。本日はお忙しい中、叔父の通夜にご参列いただき、誠にありがとうございます。
叔父は私たち親族にとって、いつも優しく見守ってくれる存在でした。特に子どもたちには、おじいちゃんのような存在として慕われておりました。そんな叔父を、こんなにも多くの方々にお見送りいただけることを、心より感謝しております。
明日の告別式につきましても、お時間の許す方はぜひお越しください。本日は誠にありがとうございました。」
告別式での挨拶例文とポイント
告別式挨拶で伝えるべき4つの要素
参列者への感謝を伝える
告別式の挨拶では、まず参列者への感謝の気持ちを伝えることから始めます。忙しい中を時間を作って参列してくださった方々への敬意を示すことが、挨拶の基本となります。
感謝の気持ちは、単に「ありがとうございます」と言うだけでなく、具体的にどのような気持ちなのかを表現することで、より心に響く挨拶になります。「皆様のお心遣いに支えられています」「温かいお見送りをいただき」といった表現を使うことで、感謝の深さが伝わります。
故人の最後の様子を伝える
故人がどのような最期を迎えたのかを、簡潔に伝えることも大切です。ただし、詳しい病状や苦しんだ様子などは避け、安らかに旅立ったことを伝えるようにしましょう。
家族に見守られながら息を引き取った場合は、そのことを伝えることで、参列者の方々にも安心感を与えることができます。また、故人が最期まで家族を大切に思っていたことなども、適切に表現すると良いでしょう。
故人の人柄やエピソードを紹介する
故人がどのような人だったのかを、具体的なエピソードを交えて紹介します。仕事に対する姿勢、家族への愛情、趣味や特技など、故人らしさが伝わるような内容を選びましょう。
エピソードを選ぶときは、参列者の多くが共感できるようなものを選ぶことが大切です。あまりにも個人的すぎる話よりも、故人の人柄がよく表れているような、温かい思い出を話すことで、参列者の方々にも故人への親しみを感じてもらえます。
今後のお付き合いをお願いする
挨拶の最後には、今後も変わらぬお付き合いをお願いする言葉を添えます。故人が亡くなっても、残された家族への支援や見守りをお願いすることで、継続的な関係性を築くことができます。
特に配偶者や子どもが残されている場合は、今後の生活への不安もあります。そうした中で、周囲の方々からの温かい支援があることは、遺族にとって大きな支えとなります。
告別式開始時の挨拶例文
「本日はご多忙の中、母の告別式にご参列いただき、誠にありがとうございます。また、ご丁寧なお花やお供え物を賜り、母も喜んでいることと思います。
母は3か月前から体調を崩し、入院しておりましたが、一昨日の朝、家族に見守られながら安らかに息を引き取りました。85歳でした。
母は生前、近所の方々との交流を大切にし、いつも笑顔で挨拶を交わしていました。また、孫たちのことをとても可愛がっており、孫たちにとっても優しいおばあちゃんでした。
私どもは母の教えを胸に、これからも精進してまいります。皆様には今後とも、母と同様にお付き合いいただけますよう、お願い申し上げます。
それでは、母との最後のお別れをしていただければと思います。本日は誠にありがとうございます。」
告別式終了時(出棺時)の挨拶例文
出棺時の挨拶は、告別式の締めくくりとなる重要な場面です。参列者への感謝と、故人への最後の言葉を込めて、心を込めて話しましょう。
「皆様、本日は長時間にわたり、父のためにお時間をいただき、誠にありがとうございました。皆様に温かくお見送りいただき、父も安心して旅立つことができると思います。
父は生前、『人とのつながりが一番大切だ』とよく申しておりました。本日、こんなにも多くの方々にお集まりいただき、父の言葉の通り、人とのつながりの大切さを改めて感じております。
これからも父の教えを忘れずに、家族一同力を合わせて歩んでまいります。皆様には今後ともご指導いただけますよう、お願い申し上げます。本日は誠にありがとうございました。」
故人の状況別挨拶例文
長く病気を患っていた場合
長期間の闘病生活を経て亡くなった場合は、その間の周囲の支援への感謝も込めて挨拶します。ただし、病気の詳細については触れすぎないよう注意しましょう。
「父は2年前から病気と闘っておりましたが、その間、皆様には温かいお見舞いやお心遣いをいただき、誠にありがとうございました。父も皆様のお気持ちに支えられて、最後まで頑張ることができました。昨日、家族に見守られながら静かに息を引き取りました。」
高齢で大往生の場合
高齢で天寿を全うした場合は、故人が充実した人生を送ったことを伝え、感謝の気持ちを表現します。
「母は92歳という高齢まで、おかげさまで元気に過ごすことができました。最期まで自分のことは自分でしたいという気持ちを持ち続け、家族にとって誇らしい存在でした。これも皆様に支えられてのことと、心より感謝しております。」
急逝だった場合
突然の死の場合は、驚きと悲しみを率直に表現しながらも、故人の生前の姿を偲ぶ内容にします。
「この度は突然のことで、私どもも未だに信じられない思いでおります。しかし、兄は最期まで自分らしく、充実した毎日を送っていました。皆様にも愛され、兄にとって幸せな人生だったと思います。」
精進落としでの挨拶例文とポイント
精進落とし開始時の挨拶
喪主による開始挨拶の例文
精進落としの開始時には、参列者への感謝と、食事の席での故人を偲ぶ時間の大切さを伝えます。堅苦しくなりすぎず、和やかな雰囲気作りを心がけましょう。
「皆様、本日は長時間にわたり、父のためにお時間をいただき、誠にありがとうございました。おかげさまで、無事に葬儀を終えることができました。
心ばかりの食事をご用意させていただきました。父の思い出話などお聞かせいただきながら、ゆっくりとお過ごしください。父もきっと、皆様とご一緒できることを喜んでいると思います。それでは、お疲れ様でした。」
親族代表による開始挨拶の例文
親族代表として挨拶する場合は、喪主の気持ちも代弁しながら、参列者への感謝を伝えます。
「遺族を代表いたしまして、ご挨拶申し上げます。本日は最後まで叔母のお見送りをいただき、誠にありがとうございました。
ささやかではございますが、お食事をご用意させていただきました。叔母との思い出話などお聞かせいただければ、遺族一同大変嬉しく思います。どうぞごゆっくりお過ごしください。」
献杯の挨拶
喪主による献杯挨拶の例文
献杯は、故人への感謝と敬意を込めて行う大切な儀式です。故人の好きだった飲み物や、人柄を表すエピソードを交えながら、温かい雰囲気で進めましょう。
「それでは、父への感謝を込めて献杯をさせていただきます。父は生前、お酒が大好きで、特にビールを愛飲しておりました。きっと今日も皆様と一緒に飲みたがっていることでしょう。
父の安らかな眠りと、皆様のご健康を祈りまして、献杯させていただきます。献杯。」
故人の友人による献杯挨拶の例文
故人の友人が献杯の挨拶をする場合は、友人ならではの視点から故人を偲ぶ内容にします。
「ご指名いただきまして、友人代表として献杯をさせていただきます。○○さんとは学生時代からの付き合いで、いつも明るく前向きな人でした。
○○さんは『人生は楽しまなければ損だ』が口癖で、いつも周りの人を笑顔にしてくれました。今日もきっと、私たちが楽しく過ごすことを願っていると思います。○○さんの安らかな眠りを祈りまして、献杯。」
精進落とし終了時の挨拶
喪主による終了挨拶の例文
精進落としの終了時には、参列者への感謝と、今後への想いを込めた挨拶をします。疲れている参列者への配慮も忘れずに伝えましょう。
「皆様、本日は長時間お付き合いいただき、誠にありがとうございました。父の思い出話をたくさんお聞かせいただき、私も知らなかった父の一面を知ることができました。
皆様もお疲れのことと思いますので、これで終了とさせていただきます。お足元にお気をつけてお帰りください。本日は誠にありがとうございました。」
親族代表による終了挨拶の例文
親族代表として終了の挨拶をする場合は、今後の法要の予定なども合わせて伝えることがあります。
「皆様、本日は最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。心のこもったお見送りをしていただき、故人も喜んでいることと思います。
なお、四十九日の法要は来月の第2日曜日を予定しております。改めてご案内させていただきます。暗くなってまいりましたので、どうぞお気をつけてお帰りください。本日は誠にありがとうございました。」
葬儀の挨拶で使ってはいけない言葉
忌み言葉について
葬儀では「忌み言葉」と呼ばれる、使ってはいけない言葉があります。これは日本古来の「言霊」という考え方に基づいており、不吉な言葉を口にすることで、さらなる不幸を招くとされているためです。
忌み言葉には、不吉なことを連想させる言葉として「大変」「消える」「落ちる」「浮かばれない」「四(死)」「九(苦)」などがあります。これらの言葉は、別の表現に言い換えて使うようにしましょう。
重ね言葉は避ける
「重ね重ね」「ますます」「度々」「いよいよ」「繰り返し」「続いて」「引き続き」「再三」「再び」「次に」「追って」などの重ね言葉も避けるべき表現です。これらの言葉は、不幸が重なることを連想させるため、葬儀の場では使わないようにします。
また、「またまた」「次々」「返す返す」といった言葉も同様に避けましょう。日常会話では何気なく使っている言葉でも、葬儀の場では注意が必要です。
直接的な表現は控える
「死ぬ」「死亡」「急死」「生きていた」「生存中」などの生死に関する直接的な表現も避けるべきです。これらの言葉は「逝去する」「お元気な頃」「生前」などの表現に言い換えて使いましょう。
また、故人の死因について詳しく触れることも控えるべきです。病気で亡くなった場合でも、具体的な病名や症状については言及せず、「長い療養生活」「病気と闘っていました」程度の表現にとどめておくのが適切です。
挨拶を成功させるための準備と心構え
事前にメモを用意しておく
葬儀の挨拶では、緊張のあまり言葉が出なくなることがあります。そのため、事前に話す内容をメモに書いておくことをおすすめします。メモは小さな紙に要点だけを書き、手のひらに隠れる程度の大きさにしておきましょう。
メモには、感謝の言葉、故人のエピソード、今後のお願いといった基本的な構成を書いておきます。全文を書く必要はありませんが、重要なポイントを箇条書きにしておくと、話の流れを忘れずに済みます。
練習して慣れておく
挨拶の内容が決まったら、実際に声に出して練習しておきましょう。鏡の前で練習することで、表情や姿勢もチェックできます。家族や親しい人に聞いてもらい、アドバイスをもらうのも良い方法です。
練習するときは、実際の場面を想像しながら行いましょう。参列者の顔を思い浮かべながら話すことで、より自然な挨拶ができるようになります。また、時間を計りながら練習することで、適切な長さに調整することもできます。
緊張したときの対処法
葬儀の挨拶では、多くの人が緊張を感じます。緊張したときは、深呼吸をして心を落ち着かせましょう。また、参列者の中から親しい人を見つけて、その人に向かって話すような気持ちで挨拶すると、緊張が和らぎます。
もし言葉に詰まってしまったときは、慌てずに一度間を置いてから話し始めましょう。完璧な挨拶をしようと思わず、心を込めて話すことが最も大切です。参列者の方々も、遺族の気持ちを理解してくれるはずです。
参列者として挨拶する際の注意点
手短に話すことが基本
参列者として遺族に挨拶する際は、手短に済ませることが基本です。「この度はご愁傷様でございます」という一般的な表現を使い、長々と話すことは避けましょう。遺族は多くの参列者への対応で疲れているため、簡潔な挨拶が望ましいです。
お悔やみの言葉を述べるときは、小さな声でゆっくりと話します。大きな声で話すと、悲しみに暮れている遺族に配慮が足りないと受け取られる可能性があります。
お悔やみの言葉の選び方
お悔やみの言葉は、宗教によって使い分ける必要があります。「ご冥福をお祈りいたします」は仏式でのみ使用する表現で、神道やキリスト教では使いません。宗教がわからない場合は、「心よりお悔やみ申し上げます」という表現が無難です。
また、「成仏」や「往生」なども仏教用語のため、他の宗教では使用しないよう注意しましょう。事前に葬儀の形式を確認しておくことで、適切な言葉を選ぶことができます。
遺族への配慮を忘れずに
参列者として挨拶する際は、遺族の気持ちに寄り添うことが大切です。故人の死因について詳しく聞いたり、遺族を慰めようとして長々と話したりすることは避けましょう。
また、故人との思い出話をする場合も、時と場所を考えて行います。受付や式の最中ではなく、適切なタイミングで簡潔に伝えるようにしましょう。遺族の表情や様子を見ながら、配慮深く接することが重要です。
葬儀の挨拶でよくある質問
挨拶の時間はどのくらいが適切?
葬儀での挨拶は、2分から3分程度が適切とされています。あまり長すぎると参列者が疲れてしまい、短すぎると感謝の気持ちが十分に伝わりません。事前に時間を計りながら練習しておくことで、適切な長さに調整できます。
内容としては、感謝の言葉、故人のエピソード、今後のお願いという基本的な構成を含めながら、簡潔にまとめることが大切です。参列者の状況も考慮し、疲れている様子であれば、予定よりも短めに切り上げることも必要です。
方言で話しても大丈夫?
地方の葬儀では、方言で挨拶することも珍しくありません。むしろ、故人や参列者にとって馴染みのある方言で話すことで、より親しみやすく温かい挨拶になることもあります。
ただし、参列者の中に方言がわからない人がいる場合は、標準語で話すか、重要な部分は標準語で補足するなどの配慮が必要です。また、あまりにも強い方言は避け、聞き取りやすい程度に調整することも大切です。
涙で言葉が出なくなったらどうする?
葬儀の挨拶中に涙が出てしまうのは、自然なことです。無理に涙を我慢する必要はありませんが、言葉が出なくなった場合は、一度深呼吸をして心を落ち着かせましょう。
どうしても話せなくなった場合は、「申し訳ございません」と一言断ってから、少し間を置いて再開します。参列者の方々も理解してくれるはずです。また、事前に親族の誰かに代理をお願いしておくことも、一つの対策として考えておくと良いでしょう。
まとめ
葬儀での挨拶は、故人への最後の想いを込めた大切な場面です。通夜、告別式、精進落としでは、それぞれ目的や内容が異なりますが、参列者への感謝と故人への敬意を込めて話すことが基本となります。忌み言葉や重ね言葉に注意しながら、心を込めた挨拶を心がけましょう。事前の準備と練習により、緊張していても想いの伝わる挨拶ができるはずです。完璧を求めすぎず、故人と参列者への感謝の気持ちを大切にして、自分らしい言葉で挨拶することが最も重要です。
